台湾映画「あなたの顔」

ドキュメンタリーだ
見えてくるものとは?
7月18日から第七藝術劇場ほか、7月24日から京都アップリンクなど、全国順次のロードショー。
本作は、2018年製作の台湾映画76分。
文=映画分析評論家・宮城正樹
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前衛映画的実験ドキュメンタリー。
実験映画となれば、
ヒット性の高い商業映画に、
背を向けたカタチだが、
映画作家的こだわりがあるのだろう。
実験・前衛映画の
マイ・ベスト&カルトなんかを、
弊ブログでかつて
やったことがあるけれど、
壁だけを長回しした映画などの、
意味がないようでいて、
映像で何かを感じさせる映画とか、
あるいは、映画の教科書に出てくる、
ルイス・ブニュエル監督の
「アンダルシアの犬」
(1928年製作・フランス映画・
モノクロ)みたいに、
ワケの分からない映画とは違い、
ストレートで分かりやすい
ところが見受けられる。
日本統治時代に造られた、
台北の中山堂に集めて、
1人ずつ顔のクローズアップ・
アップで撮ってゆく。
意図的に映したとゆう点では、
純粋なドキュとは
言えないかもしれないが、
13人の姿はそのままであり、
脚色はされていない。
沈黙する人たちが続く。
いわゆるつまり、
顔を映されるだけなのだが、
自らの過去を語ったり、
ハーモニカを吹いたり、
顔の体操をする人たちがいる。
一体、そんな顔を映すのに、
どんな意味があるのか。
長回し撮影続きなので、
見ていて退屈を感じたり、
疑問を覚える人が
いるかもしれない。
いや、いるはずだ。
否定はできない。
見せるためなのだ。
長く生きてきた人たちの
顔から見えてくる、
多様な人生模様。
それを顔だけで見せるスタイル。
まあ、かつてない試みだろうね。
本編丸ごと意図的実験映画が、
少なくなった今だからこそ、
むしろ逆に新鮮味があるんだ。
評論家受けの高かった「河」
(1997年・台湾)や「Hole」
(1998年・台湾&フランス)
などのドラマ映画でも、
実験精神を取り入れていた
ツァイ・ミンリャン監督が、
その実験精神を開花させた
と言っていい作品だろう。
サントラを担当した坂本龍一の、
聞こえるか聞こえないかの
軽いシンセの使い方も、
作品性にマッチしていた。
そして、最後に遂に映される、
舞台となる中山堂のホール内。
5分以上にわたる
固定のこの長回し撮影こそ、
壁を映した実験映画への、
ひそやかなるオマージュだと
ボクは感じた。